この記事の要約
うだるような暑さを避けて立ち寄ったお店で、普段なら選ばない大ぶりで歪なシルバーのイヤーカフを買いました。耳元に感じる見慣れない重みと、鏡に映るアンバランスな自分。似合っているのか、好きなのかまだわかりません。でも、すぐに答えを出さず、北海道の氷柱を思わせるその不思議な違和感と好奇心を持ったまま過ごす午後を綴りました。
ショーケースの隅で目が合った、歪な銀色
7月最後の日。アスファルトからの強烈な照り返しから逃げ込むように、地下にある小さなアクセサリーショップに飛び込みました。チリンと鳴るレトロなドアベルの音とともに、クーラーの効いたひんやりとした空気が火照った頬を心地よく撫でていきます。外の騒音が嘘のように遮断された静かな空間は、まるで秘密の隠れ家のようです。普段の私なら、迷わず店舗の中央にある、カラフルなビーズやパステルカラーのリボンが並ぶ華やかなコーナーへ向かうはずです。でも今日は、なぜか一番奥の、少し照明が落とされた静かなディスプレイに自然と足が向いていました。

アンティーク調のガラスケースに整然と並んでいたのは、無機質でクールなアクセサリーたち。その片隅で、ふと私の視線を捕らえて離さなかったものがありました。それは、大ぶりで少し歪な形をしたシルバーのイヤーカフです。綺麗な円を描いているわけではなく、まるで熱で一度溶けてから再び固まったような、不規則なウェーブを描いています。私のワードローブには絶対にない、ちょっとハードで無骨なデザインでした。
「私にはちょっと大人っぽすぎるかな」と、一度は視線を外して通り過ぎようとしました。私の持ち物は、ピンクや黄色など、見ているだけで元気が出るような明るい色のものばかりだからです。でも、どうしてもその鈍く光る冷たい輝きが気になって、もう一度ケースの前に戻ってしまいました。店員さんに声をかけて手に取らせてもらうと、見た目以上にずっしりとした重みがあります。手のひらに伝わるその冷たさと確かな重さに背中を押されるようにして、気づけば小さな紙袋を提げてお店を出ていました。
耳元に感じる見慣れない重力と、鏡に映るアンバランス
家に帰り、手を洗うのもそこそこに、さっそく鏡の前でそのイヤーカフを左耳につけてみました。カチャリという小さな金属音とともに、耳たぶの少し上の軟骨部分に、確かな重みが乗りました。普段つけている華奢な揺れるピアスとは全く違う、ガッチリとホールドされるような感覚です。首を傾げるたびに、耳元が少し引っ張られるような、見慣れない重力を感じます。
鏡に映る自分をじっと見つめると、そこにはなんだかアンバランスな私がいました。着ているのは、黄色のロゴが入ったいつもの元気なTシャツ。そのカジュアルで明るい雰囲気に、この無骨なシルバーは明らかに浮いています。試しにいつものように満面の笑みを作ってみましたが、耳元だけが妙にクールで、私の「天真爛漫」に少しだけブレーキをかけているような、不思議な違和感がありました。
服を着替えてみたらどうだろうと思い、衣装ケースを開けていくつかトップスを合わせてみました。でも、手作りしたお気に入りのフリルブラウスにも、よく着ているピンクのカーディガンにも、どうもしっくりきません。イヤーカフだけが「私はここだよ」と主張していて、私自身がそれに追いついていないような感覚です。いつもなら、新しいものを身につけた瞬間「これ最高!可愛い!」とテンションが跳ね上がるのに、今日ばかりは「うーん……?」と首を傾げたまま、鏡の前で立ち尽くしてしまいました。
軒先の氷柱を思い出す冷たさと、保留にされた気持ち
やっぱり外して、箱にしまっておこうか。そう思って左耳に手を伸ばしたとき、指先に触れた金属のひんやりとした感触に、ふと動きが止まりました。この冷たさと、光を複雑に反射する歪な形。どこかで見たことがあるような気がして記憶を辿っていくと、ふいに北海道の実家の風景が脳裏に浮かびました。長く厳しい冬の朝、屋根の軒先にずらりと下がっていた氷柱です。

太陽の光を浴びて、滑らかに、でも不規則なカーブを描きながら溶けていく氷の形。幼い頃、寒さに震えながらもその自然が作った造形の美しさに惹かれ、手袋越しにそっと触れたあの日の記憶。このイヤーカフの歪なウェーブは、あの氷柱にどこか似ている気がしました。そう思うと、最初はただ無骨に見えていたシルバーの塊が、急に有機的で愛おしいものに思えてきたのです。
今の私が抱えている感情を並べてみると、こんなふうにバラバラの方向を向いています。
- いつもの服に合わないという戸惑い
- 幼い頃の記憶を呼び起こす造形への愛着
- すぐに結論を出さなくてもいいという新しい発見
似合っているのか、似合っていないのか。私の好きなテイストなのか、そうでもないのか。いつもなら、自分の直感を信じて即断即決するタイプです。でも今日は、白か黒か、はっきりと決められない状態がなんだかくすぐったくて、嫌いじゃないなと思い始めました。答えを急がず、このまま保留にしておくのも、新しい楽しみ方かもしれません。
違和感と好奇心が同居する、七月最後の午後
結局、私はイヤーカフを外さないまま、自室で午後を過ごすことにしました。お茶を淹れるためにキッチンへ向かうときも、スマホでSNSのコメントをチェックするために下を向くときも、ふとした瞬間に耳元の重みが私に「いつもと違う私」を意識させます。慣れない重力に戸惑いながらも、そのたびに少しだけ背筋が伸びるような、不思議な緊張感がありました。
それはまるで、新しいジャンルの曲の振り付けを覚えている途中のような感覚です。いつも踊っているアップテンポな曲とは違う、スローで複雑なリズム。最初はステップが全く馴染まなくて、自分でも笑ってしまうくらい不格好だけれど、その違和感の先にある「まだ知らない自分」に出会えるかもしれないという静かな期待。今の私は、まさにその練習の真っ只中にいるような気分です。
この歪なシルバーのイヤーカフが、これから私の定番のお気に入りになるのか、それとも数日後にはアクセサリーボックスの奥で静かに眠ることになるのかは、まだわかりません。もしかしたら、明日には「やっぱり違う!」と笑って外してしまうかもしれないし、逆にこれに似合う大人っぽい服を作りたくなるかもしれません。
どちらに転ぶにせよ、今はまだ結論を出さなくていい。違和感と好奇心を両手に抱えたまま、時折鏡を覗き込んで首を傾げる。そんな風に、自分自身への「わからない」をゆっくりと味わう七月の終わりも、なんだか少しだけ大人になったみたいで、悪くないなと思っています。
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