この記事の要約
いつもは明るく鮮やかな写真をSNSに投稿していますが、今日はファンの方に教えてもらったフィルム風のカメラアプリを試してみました。ノイズが乗った少し暗い仕上がりに戸惑いながらも、すぐに「良い」「悪い」と決めず、その不思議な質感に惹かれていく過程を綴ります。
いつものフィルターを外してみる午後
毎日SNSにアップする写真は、私なりのこだわりを詰め込んでいます。パッと見た瞬間に元気な空気が伝わるように、撮影する時にはいくつかのルールを決めてきました。

- 画面の隅々まで明るく光を飛ばすこと
- 彩度を少しだけ上げて、目を引く色合いにすること
- 影をなるべく作らず、全体をフラットな印象に仕上げること
スマートフォンのアルバムを見返すと、どれも同じようにキラキラしたトーンで統一されています。それが私らしさの証明のような気がしていたし、見てくれる方たちにもその明るさを届けたいと信じてきました。
でも今日の午後、ふとした気まぐれから、前にコメントで教えてもらったフィルムカメラ風のアプリをインストールしてみました。アイコンをタップして立ち上げると、画面越しの景色はいつもの見慣れた部屋なのに、なんだか別の場所にいるみたいに色褪せて見えます。シャッターボタンを押すと、カシャッという少し鈍くて重たい音が響きました。
画面には「現像中」という文字が表示され、数秒間の待ち時間が発生します。普段のカメラ機能なら連写もできるし、すぐに結果が分かるのに、このじれったい時間がなんだか新鮮でした。どんな風に写っているのか、少しだけドキドキしながらスマートフォンの画面を見つめ続けます。
失敗作なのか、それとも味があるのか
出来上がった画像を見て、私は思わず首を傾げてしまいました。光は少しぼやけていて、全体に薄いベールがかかったような仕上がり。窓際の観葉植物は青みがかったグレーに沈み、テーブルの上のマグカップには不自然なほどのざらつきが乗っています。ところどころに走る白いノイズは、正直に言うと、ピントが甘い失敗作のように見えたのです。
いつもの私なら、こういう暗い写真はすぐにゴミ箱マークをタップしてしまいます。トップアイドルを目指すなら、いつでも最高の状態を届けたい。そう思って、毎日何度も撮り直しては一番良いものを選んできました。しかし、なぜか今日撮れたこの一枚は、消してしまうのがもったいないような気がして、指が止まります。
好きか、嫌いか。そう聞かれたら、まだはっきりと答えることができません。パッと目を引くような鮮やかさはないけれど、じっと見つめていると、そのザラついた質感の奥底に不思議な温もりがあるように感じられます。窓から差し込む午後の日差しが、まるで古い映画のワンシーンのように切り取られていました。
すぐに「これ最高!」とタグを付けて共有できない、この宙ぶらりんな感覚。何でも白黒はっきりさせたい性格の私にとって、それはとても珍しい戸惑いです。美味しいものは美味しい、楽しいことは楽しいと、まっすぐに伝えてきた私だからこそ、この「まだ名前をつけられない感情」の扱い方に迷ってしまいます。
ぼんやりとした光が連れてきた記憶
画面を拡大したり縮小したりしながら眺めていると、ふと、北海道の実家で過ごした冬の朝を思い出しました。雪がしんしんと降る日の朝は、分厚い雲を通して届く太陽の光が雪に乱反射して、世界全体が白っぽく霞んで見えます。晴れ渡った青空のような、突き抜けるような明るさはありません。輪郭が曖昧で、どこからが空でどこからが雪なのか分からないような、そんな景色です。

二重窓の向こう側に広がる鈍い銀色の景色と、母が淹れてくれた温かいお茶の湯気。ストーブの匂いと一緒に記憶へ刻まれているあのぼんやりとした光は、私にとってすごく安心できるものでした。もしかすると、このアプリが作ってくれたノイズや色褪せも、あの冬の日の光と同じなのかもしれません。
完璧に明るくてクリアなだけが正解じゃない。少しピントが甘かったり、暗い影が落ちていたりするからこそ、伝わる温度がある。そんな風に考え始めると、さっきまで失敗作かなと思っていた写真が、急に愛おしく思えてきました。
答えを急がず、保存フォルダで温める
結局、その写真はSNSには投稿せず、スマートフォンのお気に入りフォルダにそっと保存することにしました。すぐに反応をもらって完結させるのではなく、私だけの秘密の引き出しへしまっておくような感覚です。明日見返したらやっぱり暗すぎると思ってしまうかもしれないし、逆にすごく素敵だと自信を持ってアップしたくなるかもしれません。
夢に向かって走る毎日は、オーディションの合否や日々の練習の成果など、はっきりとした結果を求められることばかりです。だからこそ、たまにはこうして「まだ好きか嫌いか分からないもの」を、そのままの状態で持っておく余裕があってもいいのかもしれません。
外は少しずつ日が傾き始めて、部屋に差し込む光の色が変わっていきます。もう一度アプリを立ち上げて、今度は夕暮れの空にカメラを向けてみました。どんな風に写るのか、やっぱりまだ分からないけれど、その「分からない」ということが、今はなんだかとても面白く感じられます。明日もまた、この鈍いシャッター音を響かせてみよう。そんな風に思いながら、ゆっくりと暮れていく空の色を眺めていました。
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