この記事の要約
移動中の電車内で、自分の右手が太ももを無意識にトントンと叩いていることに気づきました。イヤホンをしていない無音の時間でも、頭の中ではいつも新しいステップのカウントを刻んでいます。ダンスの練習をしていない時でも、私の中にはずっとステージが存在しているのだと実感した、夏の朝の小さな発見のお話です。
電車の窓ガラスに映る、小さなリズムの正体
夏の朝の移動は、冷房の効いた車両の隅っこがお気に入りです。早朝の練習を終えてから乗る電車は、まだ少し空席があって、窓から差し込む日差しもどこか遠慮がちです。今日、ふと窓ガラスに映る自分の姿をぼんやり眺めていると、不思議なことに気づきました。私の右手の人差し指と中指が、太ももの上で規則正しくトントンと跳ねているのです。

最初は貧乏ゆすりの手バージョンかと思って、少し恥ずかしくなりました。周りの人に変な目で見られていないか、こっそり視線を動かして確認してしまったほどです。幸い、隣に座っている人はスマートフォンに夢中で、私の手元には気づいていない様子。安心して、その動きのパターンをじっと観察してみると、あることに思い当たります。
- 親指を軸にした軽いスライド
- 人差し指の素早いタップ
- 中指で取る裏拍のリズム
それは、現在練習中の新しいダンス曲のステップ、そのまんまのカウントでした。右手の指先が足の代わりになって、複雑なステップの体重移動をシミュレーションしていたのです。まるで指先だけが独立した生き物のように、滑らかに太ももの上を滑っていきます。自分の体なのに、自分が指示を出していない部分が勝手に動いている感覚は、少し面白くて、どこか誇らしくもありました。
無音の空間で響く、私だけのメロディ
イヤホンはバッグの底にしまったままで、耳に届くのは電車の規則的な走行音と、時折響くアナウンスだけ。音楽は一切流れていません。それなのに、私の頭の中ではきっちりとアップテンポな8カウントのビートが刻まれていて、指先が勝手に振付の確認を行っていたのです。
いつからこんな癖がついていたのか、自分でも全く気づかずにいました。毎朝5時のダンス練習が終わって、汗を拭いて着替えたら、そこからは「普通の女の子」の時間に戻っているつもりでした。でも、移動中や買い物の最中、もしかすると大好きなスイーツを食べている時でさえ、私の体は無意識にリズムを取り続けているのかもしれません。
試しに指先の動きをピタッと止めてみようと意識すると、なんだか急に呼吸のリズムまで崩れてしまうような、変な違和感を覚えます。まるで、泳ぎ続けるのをやめた魚のようです。この指先が刻むカウントは、今の私にとって心臓の鼓動と同じくらい、自然で必要不可欠なものになっているようです。意識の奥底で、常に音楽が鳴り響いている。その事実に触れて、私は自分のことが少しだけ好きになれました。
雪道で育てた、終わりのない準備期間
思い返せば、北海道の雪深い地元にいた頃から、同じようなことをしていました。真っ白に凍った道を歩く時、滑らないように足元に全集中しつつも、心の中ではいつもキラキラしたステージの真ん中に立って歌っていたのです。あの頃はまだ、ダンスのステップも自己流で、指先でカウントを取るような高度な癖は存在しませんでした。ただただ、歌うことと踊ることが好きで、頭の中の妄想ステージで無邪気に跳ね回っていただけです。

でも今は違います。明確な目標があって、届けたいファンのみんながいて、越えたい壁があります。「練習時間」と「それ以外の時間」という境界線は、私の中に存在しないのだと、ストンと腑に落ちました。24時間ずっと、私はトップアイドルになるための準備を続けています。
誰かに「もっと練習しなさい」と言われたわけではありません。無意識に動く右手の指先は、私自身の「どうしてもあのステージに立ちたい」という熱い気持ちの表れに思えてきました。地方には夢への道がないと笑われたことも、オーディションで悔しい思いをしたことも、全部がこの指先に詰まっています。母が作ってくれた手作りの衣装を着て、満員の会場で最高の笑顔を届ける日を夢見て、私の体は勝手に準備を進めてくれているのです。
小さな癖と一緒に進む、新しい季節へのステップ
右手の動きを無理に止めるのをやめて、そのまま指先にカウントを任せてみることにしました。窓の向こうで流れていく夏の景色に合わせて、私だけの小さなステージが続きます。青い空と白い雲、時々通り過ぎる鉄橋の規則的な影。そのすべてが、私の刻むリズムと完璧にリンクして、まるでミュージックビデオのワンシーンのようです。
次にファンのみんなの前で踊る時、この指先が刻んだ何百回、何千回という見えない練習の成果を、最高の笑顔と一緒に届けられますように。今はまだ完璧ではありません。振付に迷うことも、ステップに躓くこともたくさんあります。でも、この止まらないリズムと前を向く気持ちがある限り、私はどこまでも進んでいける気がします。
やがて電車が目的の駅に到着し、ドアが開いて夏の熱気が入り込んできました。立ち上がった瞬間、右手のカウントは自然と足元のステップへと引き継がれます。今日もとびきりの元気と笑顔で、私らしい一日を踏み出していきます。指先の小さな魔法を連れて。
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