この記事の要約

日が長くなった6月の夕暮れ時。明日の練習に向けて、誰にも見せない分厚い歌詞バインダーと向き合う静かな時間の情景。何度も消しては書き直した鉛筆の跡や、雪降る夜に引いた赤いボールペンの線。華やかな姿の裏側にある、泥臭くて愛おしい準備のひとときを綴ります。

夕暮れの窓辺と、星のシールが貼られた重たいバインダー

6月も下旬に入り、日の入りがずいぶん遅くなりました。窓の向こうの空がほんのり薄紫とオレンジが混ざったようなグラデーションに染まる頃、私の1日はもうすぐ終わりの時間を迎えます。朝5時に起きて活動を始める私にとって、夕方の18時はもうすっかり夜の入り口。梅雨の晴れ間に吹く少し湿った風を頬に受けながら、窓辺で大きく深呼吸をひとつ。外を歩く人たちの足早なシルエットを眺めていると、世界が静かな休息に向かっているのを感じます。

りん本人と「夕暮れの窓辺と、星のシールが貼られたバインダー。誰にも見せない魔法の種の育て方」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

机の上にどさっと置いたのは、私が一番大切にしている分厚いバインダー。片手で持ち上げようとすると、ずっしりとした重みが腕に伝わってきます。表紙には、お気に入りのキラキラ光る星のシールや、大好きなカフェでもらった可愛いショップカード、それに元気をもらった言葉の切れ端などを所狭しとコラージュしています。見るだけでパッと心が明るくなる、私専用の魔法の扉のようなものです。

バインダーを開くと、中には歌の練習用にプリントアウトした歌詞カードがぎっしりと綴じられています。誰にも見せることのない、私だけの秘密のノート。ページをめくるたびに、蛍光ペンや色鉛筆で引かれた無数の線が目に飛び込んできます。華やかなステージや、カメラの前で元気いっぱいに笑う姿の裏側には、こういう地味で静かな時間が必ず存在しているのです。誰かに褒められるわけでもないこの時間が、実は私を一番強くしてくれているのだと、バインダーの重みを感じるたびに思います。

カリカリという鉛筆の音と、毛羽立った紙の触感

次に歌う予定の曲のページを開き、まずは小さな手動の鉛筆削りで芯を整えます。くるくるとハンドルを回すと、木の削りかすのどこか懐かしい匂いがふわっと漂い、心がスッと静まります。シャープペンシルではなく、あえて鉛筆を選ぶのには理由があるのです。芯が紙をこする「カリカリ」という柔らかい音が、焦る気持ちを落ち着かせて、自分のペースを取り戻させてくれるから。真っ黒な芯が少しずつ丸くなっていくのを見ると、自分の中にある尖った感情も少しずつ丸く、優しくなれているような気がします。

メロディラインを頭の中でなぞりながら、息継ぎのタイミングに「V」のマークを書き入れ、感情を込めたいフレーズには波線を引いていく作業。ただ音符を追うだけではなく、主人公の気持ちを深く想像します。強がっている笑顔なのか、それとも心から溢れ出す喜びなのか。実際に小さな声を出して確かめながら、「ここはもっと弾むように」「ここは少し切なく」と気づいたことを、余白にどんどんメモしていきます。時には自分だけの記号を作って、五線譜の隙間を埋め尽くすこともあります。

納得がいかなくて、消しゴムをかけては書き直すことの繰り返し。紙が破れないように左手でしっかり押さえて、優しくこする。そのせいで、紙の表面は少し毛羽立っていて、決して綺麗とは言えません。でも、この毛羽立った手触りが、私はとても好きです。何度も転んでできた小さなかさぶたのように、それは私が真剣に向き合った証拠。ただ楽しく歌っているように見える裏側には、こうして何度も迷い、立ち止まり、鉛筆の先で探り当てた正解の積み重ねがあるのだと、指先から伝わってくるからです。

雪の降る夜に引いた、震える赤いボールペンの線

バインダーの後ろの方には、北海道にいた頃からずっと歌い続けている大切な曲たちのページがあります。パラパラとめくっていると、ふと手が止まるページがありました。二重窓の向こうでしんしんと雪が降る静かな冬の夜、どうしても上手く声が出なくて、涙を堪えながら引いた赤いボールペンの線。窓ガラスにびっしりとついた結露を指でなぞりながら、ため息をついていたあの頃。その線は今見ると少し震えていて、当時の不器用でもがいていた私がそこにいるようです。

りん本人と「夕暮れの窓辺と、星のシールが貼られたバインダー。誰にも見せない魔法の種の育て方」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚

札幌のオーディションに落ちた日の帰り道、長距離バスの窓から真っ暗な景色を眺めながら、自分がとてもちっぽけな存在に思えた夜。周りから「現実見なよ」と笑われ、心が折れそうになった時も、母の「笑ってる人のところに夢は来る」という言葉を胸に、必死に口角を上げて声を出していました。ストーブの音だけが響く部屋で、外の氷点下の寒さに負けないように、自分の中に小さな火を灯すように歌詞カードと向き合っていた時間。

その時のインクの滲みや、力強く書き込まれた「絶対に負けない!」という文字が、今の私を支えるお守りのようになっています。涙で少し波打った紙の跡は、まるで水彩画のようで、当時の悔しさも悲しさも、すべてが美しい模様に変わっていることに気づきます。綺麗に整ったまっさらなノートより、こうして使い込まれて少しヨレたページの方が、ずっと心強い味方のように思えるのです。

机の上の星屑を集めて、明日の光を待つ

気づけば窓の外はすっかり暗くなり、街灯がポツポツと点き始めていました。目を酷使したせいか、少しだけ視界がぼやけます。そろそろ休む時間だと、体が教えてくれているサイン。大きく伸びをすると、背中や肩の筋肉がほぐれていくのを感じます。

机の上に散らばった消しゴムの破片を、手のひらで丁寧に集めます。白くて小さな破片たちは、まるで机の上に散らばった星屑のよう。これは私がまた少しだけ前に進むために削り落とした、迷いや不安のカケラたちです。手のひらいっぱいに集めた星屑をゴミ箱へポイっと投げ入れると、心の中までスッキリと片付いたような気持ちになります。明日の朝一番に飲むためのお水をグラスに用意して、ベッドサイドのランプを点けました。

バインダーをパタンと閉じて、明日の朝すぐに見られるように定位置に戻します。拍手も歓声もない静かな部屋。でも、この静かで地味な時間こそが、私を一番キラキラさせてくれる魔法の種なのだと信じています。明日の朝5時、アラームが鳴って一番にこのバインダーを開く瞬間を想像して、ふふっと笑みがこぼれました。さあ、明日はどんな声が出るかな。ワクワクしながら、早めのベッドに潜り込む準備を始めます。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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