この記事の要約
朝の移動中、スマホの画面に夢中になって逆方向の電車に乗ってしまうという痛恨のミスをしてしまいました。慌てて降りた初めての駅で待っていたのは、眩しい夏の日差しと、レトロなパン屋さんの甘い香り。いつも分刻みで動いている私にとって、この予定外の寄り道は神様がくれたご褒美のようでした。サクサクのメロンパンを頬張りながら、遠回りを楽しむ心の余裕と、失敗を笑い飛ばす大切さについて考えた朝の記録です。
逆方向のホームに降り立って気づいたこと
朝7時。いつものように自主練のスタジオへ向かう電車での出来事です。冷房がしっかりと効いた車内の端の席に座り、昨日の夜にファンのみんなが送ってくれたSNSのコメントを一つひとつ読み返していました。手作りの衣装の細かな工夫を褒めてくれるメッセージや、動画のステップが上達したねという声。私を支えてくれる温かい応援の数々に触れていると、胸の奥がぽかぽかと温かくなり、嬉しくてつい画面に夢中になってしまいます。「みんなに早く次のダンスを見せたいな」なんて考えているうちに、ふと顔を上げて車窓を覗き込むと、そこには見慣れない景色が広がっていました。

やってしまった、と頭を抱えながら慌てて飛び降りたのは、今まで一度も降りたことのない小さな駅でした。ホームに降り立つと、ジリジリとした夏の日差しと、鼓膜を揺らすような蝉の大合唱が出迎えてくれます。いつもなら「早く戻らなきゃ! 予定が狂っちゃう!」とパニックになってしまうところです。けれど、なぜか今日は不思議と落ち着いていました。焦っても電車がすぐに来るわけではありませんし、たまにはこういうハプニングも悪くありません。
深呼吸をして周りを見渡すと、駅前にはこぢんまりとしたロータリーがあり、その奥に続く商店街はまだシャッターが閉まっているお店ばかりです。色褪せた看板や、レトロな街灯。そんな風景を眺めていると、遠く離れた北海道の実家近くにある商店街を思い出しました。真っ白な雪に覆われた冬の景色とは対照的ですが、どこかのんびりとした空気感はそっくりです。都会の真ん中にも、こんなにゆったりと時間が流れる場所があるのですね。
ショーケースに並んだ不揃いな丸い形
次の電車が来るまでにはまだ時間があります。せっかくだから駅の周りをほんのちょっと歩いてみることにしました。日陰を選びながら歩を進めると、どこからともなく甘くて香ばしい匂いが漂ってきます。匂いにつられて角を曲がると、そこには昔ながらの店構えをした小さなパン屋さんが開いていました。ガラス張りの引き戸からは、温かなオレンジ色の照明が漏れています。
カランコロンとドアベルを鳴らして店内に入ると、焼きたてのパンがずらりと並んでいました。どれも美味しそうで目移りしてしまいますが、一番端のショーケースに並んだメロンパンに心を奪われました。表面のクッキー生地は綺麗な格子状ではなく、手作り感あふれる不揃いな形をしています。その無骨な可愛らしさに惹かれ、迷わず一つ購入しました。
お店のおばあちゃんが「朝早くからお出かけ? えらいねえ。いってらっしゃい」と笑顔で渡してくれた紙袋からは、ほかほかの温もりが伝わってきます。その温かさに触れた瞬間、私自身に張り詰めていた糸がふっと緩むのを感じました。毎朝5時に起きて、分刻みのスケジュールで動いて、ひたすら夢に向かって走り続ける日々。もちろんその毎日は充実していますが、たまにはこうして立ち止まる時間も必要なのかもしれません。
遠回りだからこそ味わえるサクサクの甘さ
駅前の小さな公園にあるベンチに座り、さっそくメロンパンを頬張ります。一口かじると、表面のクッキー生地がサクッと音を立て、中からはふわふわのパン生地が顔を出しました。バターの豊かな香りと優しい甘さが口いっぱいに広がり、思わず「美味しい!」と声に出してしまいます。木陰の涼しい風が吹き抜け、足元では二羽の鳩がのんびりと歩いていました。

もしも間違えずにいつもの電車に乗っていたら、このメロンパンに出会うことはありませんでした。予定通りに動くことはもちろん大切ですが、思い通りにいかないハプニングの先にこそ、思いがけないご褒美が待っていることもあるのですね。そう考えると、逆方向の電車に乗ってしまった失敗も、なんだか愛おしい出来事に思えてきます。
子どもの頃、雪が積もった帰り道であえて足跡のない遠回りのルートを選んで歩いた日のことを思い出しました。靴の奥まで雪が入って冷たかったけれど、誰も踏んでいない真っ白な道を歩くのは最高にワクワクしたものです。効率よく真っ直ぐ進むだけが正解ではありません。寄り道をしたからこそ出会える景色や、味わえる感情が確実にあるのです。
予定外のステップを踏むためのエネルギー
北海道にいた頃、オーディションに落ちて落ち込んでいた私に、母が「笑ってる人のところに夢は来るんだよ」と励ましてくれた記憶が胸に蘇ります。あの頃は「現実見なよ」と周囲から笑われることもありました。けれど、どんな時も笑顔を忘れずに前を向いてきたからこそ、今こうして大好きなファンのみんなと繋がることができています。今日のハプニングも笑い飛ばしてしまえば、ただの楽しい寄り道に変わるのです。
紙袋の底に残ったクッキー生地の欠片までしっかり食べ切り、私は立ち上がりました。お腹も心もすっかり満たされ、足取りは驚くほど軽やかです。時計を見ると、スタジオには予定より遅れて到着することになりますが、今日の特訓ではいつもとは違う表現ができそうな予感がしています。型にハマらない自由な動きが、今の私なら表現できる気がするのです。
完璧なルートを通ることだけが正解ではありません。たまには道を間違えて、知らない景色を見て、美味しいものを食べて、たくさん笑う。そうやって吸収したすべての経験が、私を形作る大切なパーツになっていくのだと思います。このメロンパンの不揃いな形のように、いびつでも私らしい軌跡を描いていきたいです。さあ、そろそろ戻りの電車が来る時間。今日のステージは、とびきり元気なステップで踊れそうです。
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