この記事の要約
朝のライブ配信中、画面を流れた「大人っぽくなったね」というコメントに、なぜか焦って否定してしまった私。配信後、その理由を探るように手作りの衣装が並ぶクローゼットを開けました。初期のフリルたっぷりのワンピースから最新の洗練されたセットアップへと変化する軌跡を辿るうちに、変わっていくことへの無意識の不安と、絶対に変わらない芯の温度に気づくまでの記録です。
画面を流れた九文字と、反射的に飛び出した私の声
朝6時。真夏の強烈な日差しがカーテンの隙間から差し込む部屋で、私はスマートフォンのカメラに向かって手を振っていました。リングライトのスイッチを入れなくても十分なほど明るい太陽の光が、今日も一日がんばるぞという活力を与えてくれます。「おはよう!今日も最高の1日にしようね!」と元気に呼びかけると、みんなからの「おはよう」の文字が画面を埋め尽くしていくのを見るだけで、私の心の中にあるエネルギーのタンクが満タンになっていくのが分かります。地方に住んでいた頃は、こんなふうに全国のたくさんの人とリアルタイムで繋がれるなんて想像もしていませんでした。

流れてくる言葉を一つひとつ拾い上げては笑い合っていた最中、ふとあるコメントが目に留まりました。「最近、なんだか大人っぽくなったね」。褒めてくれているのだと頭では理解できたのに、その瞬間、私の心臓はドクンと嫌な跳ね方をしました。そして、自分でも驚くほど焦った声で「えっ、そんなことないよ!中身は北海道にいた頃から全然変わってないから!」と、必死に否定してしまったのです。
配信の終了ボタンを押し、部屋に一人きりになっても、自分のその早口な声が耳の奥でリフレインしていました。褒め言葉なら、素直に「ありがとう」と喜べばいいはずです。それなのに、どうしてあんなにムキになって打ち消してしまったのだろう。冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出してグラスに注ぎながら、喉の奥に引っかかった魚の小骨のような違和感を、ゆっくりと解きほぐしてみることにしました。
クローゼットに並ぶハンガーと、布地が語る軌跡
正体不明の焦りの理由を探るように、私は部屋の隅にある衣装用の大きなクローゼットを開けました。扉を開けると、ほのかに甘い柔軟剤の香りと一緒に、これまでの思い出が一気に押し寄せてきます。そこには、上京してから今日まで、離れて暮らすお母さんと二人三脚で作ってきた手作りの衣装たちがずらりと並んでいます。一番端にかかっているのは、初めてのステージで着たパステルピンクのワンピース。右も左も分からないまま飛び込んだ世界で、とにかく遠くからでも目立つように、私の元気がまっすぐ伝わるようにと、二人で徹夜して何重にもフリルを縫い付けた思い出の一着です。不器用な私がミシンと格闘し、指に絆創膏を貼りながら完成させたその服は、今見ると縫い目が歪んでいる箇所もあるけれど、あの頃の私の全力が詰まっています。
その隣には、季節が巡るごとに形を変えていった衣装たちが、まるで私の軌跡を証明するように連なっています。そして今、一番手前で風に揺れているのは、先週完成したばかりのサマーブルーのセットアップです。お母さんと何度もテレビ電話を繋いで型紙を修正し、ようやく納得のいく形になった自信作には、こだわりのポイントが詰まっています。
- 激しいステップでも動きやすさを妨げない軽やかなジョーゼット素材
- ターンのたびに風を含んで美しく広がる裾のドレープ
- ビーズやスパンコールに頼らず、シルエットそのもので魅せる工夫
こうして初期のワンピースと最新のセットアップを並べてみると、確かにデザインの方向性は大きく変化しています。リボンやフリルで飾り立てなくても、自分のステップや表情のバリエーションで曲の世界観を表現したい。そんなふうに考えるようになった私の内面の変化が、そのまま布地の選び方やカッティングに表れていました。ファンのみんなは、この衣装の変化やパフォーマンスの幅を見て「大人っぽくなった」と言ってくれたに違いありません。
雪深い町の記憶と、手放したくなかった熱量
衣装の変遷を眺めているうちに、ハッと気がつきました。私が「大人っぽくなった」という言葉に過剰に反応してしまったのは、もしかすると昔の無邪気な熱量を失ってしまったのではないかという無意識の恐怖があったからかもしれません。北海道の雪深い町で、マイナス気温の朝に白い息を吐きながらがむしゃらにステップを踏んでいたあの頃。窓ガラスが凍りつくような厳しい寒さの中でも、心の中だけはいつも燃えるように熱かったことを覚えています。周囲から「現実見なよ」と笑われても、母の「笑ってる人のところに夢は来る」という言葉だけを信じて、とにかく全力で、空回りするくらい大きな声で笑っていた私。

洗練されていくこと、無駄な力が抜けていくことは、前に進んでいる証拠です。でも、あの不器用で泥臭い情熱まで一緒に薄れてしまったように見えたらどうしよう。きれいにまとまってしまうことで、みんなを元気にしたいという一番大切なエネルギーが弱まってしまうのではないか。そんな不安が、画面越しの優しいコメントに対して、反射的な防御となって飛び出してしまったのだと理解できました。
変わっていく自分を受け入れることは、過去の自分を否定することではないはずです。それなのに、私はどこかで「あの頃のままの私でいなきゃいけない」と、無意識の鎖で自分自身を縛り付けていたのかもしれません。トップアイドルへの階段を登りたいと願いながら、原点の姿が変わってしまうことを恐れる。そんな矛盾した感情が、あの早口な否定の正体でした。
裏地に隠されたステッチと、これからの笑顔
そんな考えを巡らせながら、ふと最新のサマーブルーの衣装の裏地をめくってみました。そこには、初期のパステルピンクのワンピースとまったく同じように、お母さんが太い糸で縫い付けてくれた赤いステッチが隠れています。表からは絶対に分からないけれど、首元のタグのすぐ裏側に、小さくクロスされた赤い糸。「どんなステージでも、あなたらしく輝けますように」という強い願いが込められたお守りです。
デザインがどれだけ洗練されても、布地の裏側に流れている熱い温度は、あの雪深い町で初めて夢を語り合った日から何一つ変わっていませんでした。外見や表現方法が変化しても、根底にある「みんなを笑顔にしたい」という強い思いは揺るぎません。むしろ、大人っぽくなったと言ってもらえるのは、その思いをより遠くまで届けるための表現の引き出しが増えたということ。悲しい曲では切なさを、激しい曲では力強さを、ただ元気いっぱいの笑顔だけで押し切るのではなく、曲のメッセージに合わせて届けられるようになってきた証拠なのだと思います。
そう考えると、先ほどの自分の不器用な返答が、なんだかとても可笑しく感じられました。私は私らしく、堂々と変化していけばいいのです。明日の朝の配信では、もう一度あのコメントの主に向かって、今度はとびきりの笑顔で「ありがとう、私、ちゃんと成長できてるかな?」と尋ねてみようと思います。真夏の強い日差しが差し込む部屋の中で、背筋がすっと伸びるような心地よさを味わいながら、私は新しい衣装を丁寧にハンガーへ戻しました。窓の外では、蝉の鳴き声がさらに力強く響き始めていました。
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