この記事の要約
朝のダンス練習後、鏡の前で前髪のセットに苦戦した日のこと。湿気でどうしても右に跳ねてしまう毛先を見て、以前の私だったらやり直していたはずなのに、ふと「これも私らしいかも」と笑って受け入れることができました。完璧な姿を見せることへの執着を手放し、少しだけ肩の力が抜けた夏の朝の記録です。
鏡の前で繰り返す、朝6時のルーティン
朝5時に起きて、ストレッチとステップの基礎確認をするのが私の日課です。ひとしきり汗を流し、冷たい水で顔を洗うと、ようやく一日が始まるスイッチが入ります。そこから鏡の前に立ち、ヘアアイロンを温めるまでの数分間。これは、ただの女の子からみんなに元気を届ける存在へと切り替わるための、とても大切な時間なのです。

特に前髪のセットには、並々ならぬこだわりを持ってきました。北海道の雪深い町で、テレビの中のキラキラしたアイドルたちに憧れていた頃から、前髪は絶対に崩れないのが正義だと信じて疑わなかったからです。厳しいオーディションに落ちて悔し涙を流した日も、翌朝には必ず鏡の前に立ち、前髪をまっすぐに整えることで、自分自身の心までピンと張り直してきました。
しかし、7月も終盤に差し掛かった今の季節、空気にたっぷりと含まれた湿気が私の行く手を阻みます。窓を開けると、むわっとした熱気と一緒に、草いきれの匂いが部屋に入ってきます。故郷のカラッとした短い夏とはまるで違う、肌にまとわりつくような重たい空気。アイロンの温度を少し高めに設定して、慎重に手首を返しても、ほんの数分で元の形に戻ろうとしてしまうのです。今日もまた、右側の毛先がぴょんと外側に向かって跳ねていました。
頑固な毛先と、ふいにこぼれた笑い声
これまでの私なら、ここで即座に洗面台の蛇口をひねり、前髪を根元から濡らしてドライヤーからやり直していたはずです。タオルでしっかりと水分を拭き取り、ブラシを使って引っ張るように乾かし、もう一度アイロンの熱を通す。そんな工程を繰り返してでも、画面の向こうのみんなには、100パーセント完璧に整った私だけを見せなくてはいけない。少しでも崩れた姿を見せたら、私の元気パワーが半減して伝わってしまうような気がして、無意識のうちに自分自身に厳しいルールを課していました。
けれど今朝は、二回目のアイロンを当てようと手を伸ばした瞬間、ふと鏡の中の自分と目が合いました。思い通りにならない髪の毛に少し困ったような、でもどこか必死すぎる自分の表情。その頭の上で、右に跳ねた毛先がまるで「今日はこっちに行きたい気分なんだ!」と元気いっぱいに主張しているように見えたのです。そのあまりにも堂々とした跳ねっぷりと、それに翻弄されている自分の姿のギャップに、なんだかおかしくなってしまい、一人でふふっと吹き出してしまいました。
笑ってしまうと同時に、肩に入っていた余計な力がスッと抜けていくのを感じました。どうして私は、一本の髪の毛の動きまで完璧にコントロールしようと躍起になっていたのでしょうか。もちろん、プロとして身だしなみを整えることは大切です。でも、ガチガチに固めて隙を見せないことだけが、みんなを笑顔にする唯一の正解ではないのかもしれない。そんな思いが、ふわりと頭に浮かんできました。
完璧を手放して見つけた、私らしいシルエット
思い返せば、お母さんと一緒に手作りしている衣装も、プロの既製品のように完璧な仕上がりではありません。夜遅くまでミシンを踏んで作ってくれたフリルの裏側を見れば、縫い目が少し不揃いなところもあるし、ビーズの飾りの位置が左右でほんの数ミリずれていることもあります。でも、その手作りの温かみと、不器用ながらも一生懸命に作られた軌跡があるからこそ、私らしい元気なパフォーマンスができるのだと信じてステージに立ってきました。

それなら、この跳ねた前髪だって同じこと。綺麗に内側にまとまった丸いシルエットじゃなくても、外に向かって元気に飛び出しているこの毛先は、今の私のエネルギーをそのまま表しているようで悪くありません。むしろ、ちょっとしたハプニングさえも「まあいっか!」と笑い飛ばせる大らかさを持っていた方が、私自身がもっと心から楽しんで発信できる気がします。
「笑ってる人のところに夢は来る」
ずっと大切にしてきたお母さんの言葉が、今朝はこれまでとは少し違う響きを持って胸に届きました。無理をして作り上げた100点の笑顔よりも、思い通りにならないことすら面白がってしまえる自然な笑顔のこと。完璧を手放した先にこそ、もっと大きな夢に繋がる道があるのかもしれないと、大げさではなく本気でそう思えたのです。
ほんの少しだけ軽くなった、夏の始まりの足取り
結局、今朝はアイロンの電源を切り、そのままの髪型で自撮り写真を一枚撮ることにしました。カーテン越しの朝の光を顔いっぱいに浴びながら、跳ねた毛先を指差して、とびきりの笑顔を作ります。SNSの投稿画面を開き、「今日の私は右肩上がりです!」という言葉を添えて送信ボタンを押す。完璧に整った姿以外の自分を見せるのはほんの少し勇気がいりましたが、アップロード完了の文字を見たとき、不思議と清々しい気持ちに包まれました。
スマホを机に置き、窓の外を見ると、夏の強い日差しがアスファルトを照らし始めていました。昨日までの私なら、この暑さと湿気にため息をついていたかもしれません。でも今の私は、この重たい空気さえも、私を少しだけ成長させてくれたスパイスのように感じています。
完璧じゃなくても大丈夫。少し不格好でも、元気なパワーはきっと伝わる。そんな小さな自信を胸に、今日も元気よくドアを開けます。跳ねた前髪が風に揺れるのを感じながら踏み出す一歩は、昨日よりもほんの少しだけ軽やかな気がしました。
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