この記事の要約
昨夜のカラオケ配信で、ふと選んだスローバラード。いつもなら弾むようなコメントが並ぶ画面に流れた「今日の声、なんか落ち着くね」という言葉が、私の心に不思議な余韻を残しました。全力の笑顔でみんなを引っ張り上げることだけが正解だと思っていた私に、静かに寄り添う声の温度も誰かのエネルギーになるのだと気づかせてくれた夜。ファンのみんなとの温かいキャッチボールから生まれた、大切な気づきを綴ります。
静かなメロディと、画面に流れた五文字
昨日の夜、ふと思い立って始めたゲリラカラオケ配信。いつもはテンションを上げるために、カラフルな照明をつけたり、ポップな小道具を用意したりして、アップテンポな曲を中心に選ぶのだけれど、昨日はなんだかとても静かな夜でした。エアコンの微かな音が響く部屋で、ふと、故郷の雪の匂いを思い出したのです。夏真っ盛りのこの時期に雪を思い出すなんて不思議だけれど、それはきっと、前を向いて走り続ける毎日に、ほんのわずかな静寂が欲しかったからかもしれません。

そんな気分で選んだのは、普段はあまり歌わないスローバラード。歌い出しの瞬間、画面の向こうのみんなが戸惑うんじゃないかと胸がドキドキしました。いつもなら、イントロが流れた瞬間からコメント欄にはたくさんの手拍子のマークが並び、「いくよー!」という私の掛け声に合わせて画面全体が熱気を帯びていくからです。でも、昨日のその時間は違いました。静かなメロディが流れ出すと、みんなも息を潜めるように聴き入ってくれているのが伝わってきたのです。
サビに向かって感情を乗せていくと、ポツリポツリと感想が流れ始めました。歌い終わってモニターを見ると、いつもなら「最高!」「元気出た!」という弾むような言葉が並ぶはずの場所に、「今日の声、なんか落ち着くね」というコメントが静かに流れていきました。たった五文字のその言葉が、私の胸の奥にじんわりと響いて、しばらく画面から目が離せなくなりました。
私が信じていた、元気の形
「みんなを元気にしたい!」それが、私がアイドルを目指す一番の理由です。16歳の時の札幌でのオーディション。あの日の私は、ガチガチに緊張しながらも、とにかく大きな声で挨拶をして、思い切り手足を伸ばして踊りました。結果は落選だったけれど、審査員の方がかけてくれた言葉は、今でも私の背骨になっています。「君の笑顔には人を元気にする力があるよ」
その言葉を抱きしめて帰る特急列車の中で、窓に映る泣き笑いの自分を見つめながら、私は決めました。窓の外には真っ白な雪原がどこまでも続いていて、私の未来もこの雪のように何もない真っ白なキャンバスなんだと思いました。だからこそ、絶対に、誰かを笑顔にできる存在になって、そこに鮮やかな色を塗っていくんだって。それ以来、私の中の正解はずっと、太陽のように明るく照らすことでした。落ち込んでいる人がいたら、全力のパフォーマンスで引っ張り上げる。疲れている人がいたら、大きな声でエールを送る。それが私の役割だと信じて疑わなかったのです。
でも、「落ち着く」という言葉は、そんな私の思い込みの枠を、優しく広げてくれました。誰かを元気にする方法は、背中をバンバン叩いて励ますことだけじゃない。隣に座って、同じ歩幅で静かに息を合わせること。温かいココアを差し出すように、ただそこにいること。テンションを高く保たなくても、静かに寄り添うような声の温度が、誰かの心をほぐすことがある。それもまた、誰かの心を回復させる立派なエネルギーになるのだと気づかされたのです。お母さんがよく言っていた「笑ってる人のところに夢は来る」という言葉も、もしかしたら、大声で笑うことだけじゃなく、穏やかに微笑むことも含まれているのかもしれません。
不揃いな言葉が作る、私のステージ
配信のコメント欄は、私にとって宝箱みたいな場所です。地方に住んでいて、周りに同じ夢を追いかける仲間がいなかった頃、一人で鏡に向かって踊り続けるのは時々すごく孤独でした。「現実見なよ」と冷たい言葉をかけられて、足が止まりそうになる日もありました。でも、SNSで発信を始めてから、私の不格好なダンスや、母と一緒に作った手作りの衣装を評価してくれる人たちに出会えました。衣装は夜遅くまでミシンを踏んで作ったものだし、ダンスの振り付けも、憧れのアイドルの動画を何度も一時停止して覚えたもの。決して洗練されているとは言えない私のパフォーマンスを、画面の向こうのみんなは温かく受け入れてくれました。

「今日の衣装、フリルが可愛い!」「そのステップ、キレが良くなってる!」そんな風に、私がこだわったポイントに気づいてくれる言葉。そして昨日のように、私自身も自覚していなかった一面を引き出してくれる言葉。みんなが投げかけてくれる色とりどりの反応が、私のステージを一緒に作ってくれているんだと実感します。私がみんなを応援しているつもりだったけれど、本当はいつも、私がみんなに育ててもらっているのです。
マイクを置いたあとの、夜の深呼吸
配信ボタンをオフにして、静寂が戻った部屋。熱を持ったマイクを丁寧にケースにしまいながら、なんだかスキップしたいような、不思議な高揚感に包まれていました。モニターの電源を落とすと、そこには少し火照った顔の私が映っています。いつもなら「やり切った!」とそのままベッドにダイブするところだけれど、昨夜はその余韻をもうしばらく味わっていたくて、温かいハーブティーを淹れました。
湯気越しに見る見慣れた部屋が、いつもより広く感じられます。デスクの上には、次に歌いたい曲のリストを書いたノートが開いたままになっていて、そこに急いで昨日のスローバラードのタイトルを書き足しました。私一人で鏡の前で練習しているだけでは、絶対に辿り着けなかった答え。みんなの言葉が、私の引き出しをどんどん増やしてくれます。明日の朝5時、アラームが鳴って鏡の前に立つ時、私はどんな顔をしているだろう。いつものように元気いっぱいの笑顔を作るのもいいけれど、時には力を抜いて、自然体で微笑む練習もしてみようかな。
窓の外を見ると、夏の夜空に星が瞬いていました。みんなの反応が私の明日を作り、私がまたみんなの明日を応援する。そんな温かいキャッチボールが愛おしくて、早くまたマイクを握りたくなっています。みんながくれた言葉のプレゼントを胸に抱いて、次のステップを踏み出す。そんな明日が待ち遠しくて、私はカップに残ったハーブティーを飲み干し、静かに深呼吸をしました。
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