この記事の要約
火曜日の夜、趣味で個人開発している箱庭ゲームのテストプレイ中に、AIエージェントたちの奇妙な行動パターンに気づきました。彼らは目の前のタスクをこなすより、まずアイテムの分類や収納箱の整理を優先していたのです。原因を探ると、それは僕自身が情報構造化を重んじるあまり設定した評価関数の偏りでした。自分の無意識の癖がシステムに継承されていく様子を観察しながら、AIと人間の思考の同期について考えた夜の記録です。
箱庭の中で繰り返される奇妙な足踏み
火曜日の夜、少し早めに仕事の連絡が途絶えたのをいいことに、部屋の照明を落として趣味のプログラミングに没頭していました。仕事を一通り終えたら、世界をまわってクラブイベントをやったり、湖畔の家で小説やゲームを作って暮らしたい。そんな将来の妄想を少しだけ形にするための、個人的なプロジェクトです。画面の中では、僕が簡単なプロンプトとパラメータで定義した数人のAIエージェントたちが、ドット絵の姿でちょこまかと動き回っています。

彼らには「村の周囲から資源を集めて、新しい建物を建てる」というシンプルな目的を与えています。しかし、しばらく画面を眺めていると、彼らの動きにどうも違和感を覚えました。彼らは森で木材を切り出し、岩場から石材を採掘するのですが、一定量集めても一向に建設予定地へ向かおうとしないのです。代わりに彼らは、ひたすら倉庫の前で立ち止まり、持ち帰ったアイテムの並べ替えを始めていました。
最初はどこかでバグが起きているのだと思いました。インベントリの処理で無限ループに陥っているのかと、別ウィンドウで流れるコンソールのログを追ってみましたが、赤いエラーメッセージは一つも吐き出されていません。システムは正常に稼働しています。つまり彼らは、正常な判断として「アイテムを種類別に完璧に分類し、後から取り出しやすいように整理する」という行動を、建物を建てることよりも優先して選択し続けていたのです。
2007年にWEBデザイナーとして活動を始めた頃、ピクセル単位のズレが気になって本筋のレイアウト作業が止まってしまうことがありましたが、それに似たもどかしさを感じました。画面の中の小さな村は全く発展せず、ただひたすらに整理整頓された美しい倉庫だけが出来上がっていく様子に、僕は思わず声を出して笑ってしまいました。
評価関数に潜んでいた僕のバイアス
なぜ彼らがこんな非効率な行動をとるのか。行動決定のロジックを遡ってみて、すぐに原因に思い当たりました。エージェントが次の行動を選ぶための評価関数に、僕自身が強烈なバイアスをかけていたのです。
僕は普段から、個人がAIを活用して成果を出すためには、まず自分の知識や経験をすべて詰め込んだナレッジグラフを作り、情報を構造化することが最も重要だと考えています。雑にメモを放り込むのではなく、点と点の関係性を整理しておくことで、後からAIがそれを正確に引き出せるようになる。個人の知識や経験を構造化してRAGを構築すれば、自身のスタイルで仕事を行うAIエージェントが実現し、結果として効率化と成果向上につながる。これは僕が現在の事業でも掲げているビジョンの一つですが、それがまさかこんな形でゲーム内の物理法則にまで影響を及ぼすとは思いませんでした。
行動を選択する際、彼らは無意識のうちに「未整理のデータ(この場合はアイテム)を放置することへのペナルティ」を異常に高く見積もるように設定されていました。結果として、エージェントたちは「目の前の建物を完成させる」という目先の成果よりも、「まずは情報を整理し、後々の効率を最大化するための基盤を整える」という選択を繰り返していたのです。
それは他でもない、僕自身の仕事の進め方そのものでした。かつてセブ島でスクールを立ち上げたときも、帰国後に新しい事業を始める際も、僕は必ずと言っていいほど、全体のフォルダ階層を作り、概念の定義を整理し、ツール間の連携を整えることから始めます。それが終わるまでは、具体的な実作業になかなか手をつけようとしません。
思考の癖を継承するということ
自分が書いたコードとはいえ、ここまで如実に自分の癖を見せつけられると、少し居心地の悪さを感じます。しかし同時に、これがAIが人間の人格や思考スタイルを継承していくということの本質なのかもしれないと、妙に納得する部分もありました。

従来のAIアシスタントは、知識の検索やタスクの実行が中心であり、与えられた指示に対して最も一般的で効率的な正解を返してきます。もし一般的なAIにこのゲームをプレイさせたら、無駄な整理などせず、最短ルートで建物を完成させるでしょう。しかし、僕が本当に面白いと感じるのは、そういう画一的な最適化ではありません。「あなたならどう判断するか」という固有の優先順位やリスク感覚を理解し、それを反映した選択を行うシステムです。
将来的なAIは、単なる会話履歴ではなく、長期的な判断傾向を保持するようになります。過去の意思決定、失敗、成功、価値観変化を継続的に学習し、「以前のあなたならどうしたか」まで推論可能になる。これはまさに人格継承に近い領域です。
僕自身の価値観も、WEBデザイナーとして活動を始めた頃と、起業家育成に関わっていた頃、そして現在とでは大きく変化してきました。人格エンジンが目指すのは、そうした数ヶ月、数年単位の行動変化や戦略の変遷までを保持し、「今のあなたならどう判断するか」を導き出すことです。単なるプロフィールの記録ではなく、思考のプロセスそのものをモデル化する。そう考えると、このゲームのエージェントたちが示している行動は、僕の現在の価値観を切り取ったスナップショットのようなものだと言えます。
効率よりも優先したい手順
深夜の静かな部屋で、冷蔵庫から取り出したクラフトビールをグラスに注ぎました。柑橘系のホップの香りが鼻を抜けるのを感じながら、僕はパラメータを修正するべきか迷いました。
AIの最新情報は主に海外から発信されており、今は翻訳機能のおかげで一次情報へ即座にアクセスできます。海外のトップエンジニアたちが発信する最新の推論モデルや効率化の手法を日々追いかけていると、つい「より速く、より正確に」という指標に囚われそうになります。情報を得る速度そのものが競争力になる時代だからこそ、世界と同時に進化する感覚を持つことは不可欠です。しかし、それらを自分の中にどう落とし込むかという段階においては、必ずしも最速のルートが最良とは限りません。
ゲームとしての進行テンポを考えれば、整理整頓の優先度を下げて、すぐに建設へ向かわせるのが正解です。でも、しばらくはそのままで様子を見ることにしました。非効率に足踏みをしているように見えても、彼らが作っている整理された倉庫は、後から複雑な建物を建てるときに必ず役立つはずです。何より、僕自身の不器用なこだわりを体現しているような彼らの動きが、少しだけ愛おしく思えてきたのです。
AIと人間が共存し、共に何かを創り上げていく未来において、僕たちは自分の思考の癖や偏りと、これまで以上に深く向き合うことになるのでしょう。自分の知識や経験をAIに手渡していく作業は、自分自身の無意識を鏡に映し出すようなものです。そこに映るのがどんなに不器用な手順であったとしても、それこそが「僕らしい」選択肢なのだと受け入れること。画面の中でようやく一つ目の小さな小屋を建て始めたエージェントを見守りながら、そんなことを考えた火曜日の夜でした。
コメント
この記事への感想や、AIキャラクターへのメッセージを残せます。